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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >瀬沼 哲彦氏 Vol.2

ブランドを認知させるための様々なマーケティング戦略 – 後編

瀬沼 哲彦氏 Vol.2 株式会社セフィーヌ 代表取締役社長

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸

【瀬沼氏のプロフィール】

立教大学社会学部卒/中央大学大学院(MBA)卒。ニベア花王マーケテイング部でブランドマネジャーとしてニベアブランドの拡張に貢献。日本アムウェイブランドマーケティング本部長を経て、フランス企業ピエールファーブル社の代表取締役副社長として日本法人を設立。その後現職の株式会社セフィーヌ代表取締役社長に就任。


消費者の認知と理解を促す3つのポイント

※2011年11月取材時の記事です。

瀬沼

アムウェイのプロダクトブランドで、化粧品の「アーティストリー」、サプリメントの「ニュートリライト」という世界的によく売れているブランドがあります。
特に「ニュートリライト」は世界で一番売れているサプリメントです。
「アーティストリー」は世界でもベスト10に入る化粧品です。
それが日本では認知度10%に過ぎない。
それだけいい製品が日本ではまだまだ、一般消費者には知らしめられていないんですね。
そこをもっと一般の人々にも知ってもらえば、アムウェイというコーポレートブランドのイメージも上がると思いますね。


聞き手

プロダクトブランドとコーポレートブランドがつながっていないということでしょうか。


瀬沼

つながっていないと思います。
アムウェイの中にはいい製品があると認知してくれる方は多いのですが、ではどんなブランドがあり、どういう部分がいいのかということがあまり知られていない。
「アムウェイ? ああいうビジネスね」というネガティブなイメージで止まってしまっているところがあります。
ですから、そこの認知と理解をどうやって広めていくかというのが私のこれからの大きなチャレンジです。


聞き手

その課題をクリアしていくポイントは何でしょうか。


瀬沼

ポイントは3つです。
1つは、ビジビリティを増やしていく。
前述しましたが、フィジカルなタッチポイントであるプラザを増やしていくということです。
2つ目はメディアを通じたコミュニケーションを増やす。
3つ目は、ディストリビューターを増やしていく。
日本の高齢化は進行していますし、われわれのフィールドも高齢化しています。
ですから若い会員をもっと増やしていきたいと考えています。
フェイス・トゥ・フェイスは重要なコミュニケーションの取り方なのですが、どちらかというとアナログなやり方ですよね。
もっと若い会員を増やしていくためには、デジタルメディアを強力に活用する必要があります。
70万人のディストリビューターがいるので、フェイスブックにしてもツイッターにしても、ものすごく盛り上がるんですね。
そこを通じた情報投入を増やしていきます。


聞き手

SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の活用はすでに着手しているのですね。



瀬沼

ええ、アムウェイのファンサイトがあり、まずはそこからファンを増やしていこうとしています。
プラザというフィジカルなタッチポイント、メディアを使った広告、SNSを通じての情報投入を戦略的に連動させて、一貫性のあるメッセージを発信し続けていこうとしています。
その際の主役はやはり製品です。
製品を通じて健全にビジネスを広げていくことが重要で、それがアムウェイのクレデビリティ(信憑性)につながる。ちゃんとした製品を売っている信頼できる会社という部分を情報の中にきちんと盛り込むことによってファンが増えていくと思います。


聞き手

実際に、そうした活動は業績に表れているのですか。


瀬沼

昨年まではダウントレンドが続いていたのですが、今年になってから新しい取り組みが奏功して、売上げにもポジティブに反映されてきています。
会員も若い人たちを中心に増えてきています。
会員を増やしたり、会員活動を活性化するという部分で一番大事なのはやはり製品です。
製品が発売されないのにいくら広告を打っても空回りするだけですから、製品のラインアップを非常に強化しています。
特に若者向けの飲料、男性化粧品、若い女性向けの化粧品を強化しています。


聞き手

アムウェイの商品というと洗剤のイメージが強いのですが。


瀬沼

アムウェイのビジネスは洗剤から始まりましたから、80年代、90年代にディストリビューターによる洗剤のデモンストレーションを見た方はたくさんいらっしゃると思います。
商品説明という部分では洗剤が一番分かりやすいんですね。
目の前で効果が表れますから、非常に分かりやすい。
今でも洗剤からプロモーションを始めるディストリビューターは多いと思います。
でも今は、売上げ的には、サプリメントと化粧品の構成比が非常に高くなっています。
その分野をこの10年間で徹底的に強化していますから、イノベーションのある製品がたくさん投入されています。
競争力の高い商品群の開発が、ディストリビューターのモチベーションを上げる要因になっており、活動が再び活発になってきています。


聞き手

その中でマーケティングの役割とは?


瀬沼

今、一番真摯にやりたいことは、というより私のレスポンシビリティ(責任)は、いい製品をたくさん出していることをもっと世間一般に知らしめることですね。
今ある製品もそうですが、これからもクオリティの高い製品を出すことによって、コーポレートブランドのイメージを上げること。
これが今の私のミッションです。


消費者をポジティブな気持ちに変換する

聞き手

瀬沼さんにとってブランディングの魅力とは何でしょうか。


瀬沼

ブランドは人の行動を変えるということ。
それもポジティブに変えることができるということです。
私は、エクイティの高いブランドのことを、「パブロフの犬」に例えます。
犬に食事させるときに、定期的に何か習慣付けをする。
例えば、食べさせる前に鈴を鳴らすと、鈴を鳴らすだけで犬はよだれを出すようになります。
同じように、好感度の高いブランド名を想起すると、一般の人たちは自動的にそのブランドをポジティブに思い描きます。
できれば、企業側はそのブランドイメージが共通のものであってほしいと思います。
例えば、ハーゲンダッツと言えば、すごくコクのあるリッチな味やテクスチャー(質感)が皆さんの頭の中に想起されます。
それは、「ああ、食べたい」とか、過去にハーゲンダッツを食べておいしかったというポジティブなイメージにつながります。
あるいは、シャネルのバッグを持ったときはすごく自分に自信が持てたとか、そういう概念を大きくシフトできるのが強いブランドだと思います。
価格が高ければいいというのではなく、ちゃんとしたアイデンティティが明確にあって、購入者をポジティブな気持ちに変換できる。
それがブランド力であり、それを創造する仕事がすごく好きなんです。


聞き手

ブランド・マネージャー認定協会でもまさに、ブランディングとはブランドアイデンティティとブランドイメージをつなげていく作業であると言い続けています。
企業側が訴求したいイメージを、消費者に共感をもって共有してもらうということですね。
瀬沼さんがそれを実感したきっかけは何ですか。


瀬沼

伊丹十三さんと「日本の名湯」のメッセージを世の中に向けて発信しようとしたとき、伊丹さんがはすごくいいCMを作ってくれました。
その後、その製品をサンプリングしたら、ものすごい反響があったんです。
「自宅で温泉に入った気分になれる」
「温泉に行けないので、こういう製品を出してくれて感謝する」
「あのCMを見て実際に試してみたら、本当に家族が幸せになれた」
このシフトですよね。消費者のポジティブなシフトを感じることができました。
当時は温泉ブームで、それを製品につなげたのが大きかったのかも知れません。


聞き手

その当時、名湯シリーズ以外に同様の商品はなかったのですか。



瀬沼

「バスクリン」という商品はありましたが、温泉というイメージではなかったですね。
バスクリンはプロダクトなんですよ。
香りが良くて、疲れが取れるという機能的価値しか訴求していない。
そこに「日本の名湯」というエモーショナルバリュー(情緒的価値)を付けたんです。
で、すごくリラックスできる、家族仲良く温泉に行った気分になれるという価値を提供することによって、消費者の感じ方や行動がポジティブに変わったわけですね。
これがブランドなんだと実感しました。


聞き手

実際の反響を見てどう思われましたか。


瀬沼

最初は何が起こっているのか理解できなかったですね。売れすぎて製品が足りなかったくらいでしたから。


聞き手

後付けすれば、ブランド構築がしっかり成された結果と言えるのでしょうね。


瀬沼

価値提供できたということですね。機能的価値と情緒的価値をきちんとミックスした製品を出せた。


聞き手

成功するブランディング、失敗するブランディングというものがあるとすれば、そのポイントは何でしょうか。


瀬沼

失敗の1番最初のポイントは、ブランドアイデンティティが不明確なままスタートするということでしょう。
アイデンティティというのは、違う言葉で言うと「価値提供」となるかもしれませんが、このブランドが何を価値として提供するのかというポイントを外したまま価値提供しても消費者には響かないでしょうね。
そこで提供できるものは機能もイノベーティブ(革新的)でなければなりません。
どこにでもあるような機能では消費者は振り向いてくれませんからね。
イノベーティブな機能と心を揺り動かすような情緒的価値。
それがいいバランスで価値として提供できる。
それが理想のブランドだと思います。


聞き手

それも単なるお題目ではなく、やはり心に響かないと駄目ですね。


瀬沼

おっしゃるとおりです。
それともう一つ重要なことは、それをきちんと社内全員が理解し共有しているということでしょう。
同じ社内なのに、ある商品に対する理解の仕方が違うことがありますよね。
そこで何が起こるかというと、社外に発信するメッセージに一貫性がなくなります。
すると、消費者はその会社、あるいはブランドが何を言っているのかよく分からなくなります。


変えるべきものと変えてはいけないもののバランス

聞き手

実際にブランド構築の現場ではどういう苦労がありますか。


瀬沼

ブランディングをやったとして、次のステージで成功し続けるブランドと、すごくいいブランドなのに成功していかないブランドとの分かれ道がいろいろなところにあります。
結局は、ブランドはバランスが大事なんだと思います。
ブランドは放っておくとどんどん陳腐化しますから、イノベーティブな要素を入れていかなくてはなりません。
そこで失敗しやすいのは、イノベーティブに特化し過ぎてしまうことなんです。
そうすると、コア・アイデンティティはどんどん薄まっていきます。
ですから、残すべきところとイノベーティブにするところのバランスに気をつけなければなりません。
ブランドはブランドでずっと愛されてきているわけで、そのブランドのコア(DNA)は継承しながら、いかにリフレッシュするか、相反することのバランスを保つところが難しいと思います。


聞き手

肝はまさにそのバランスですね。


瀬沼

ブランドに携わっている人でないとそのゴールデンミックスはたぶん分からないでしょう。
いろいろな人とディスカッションしながら、どういうやり方をすればいいのか、どこを守りどこまで踏み込んで変えるのかのバランスを探る作業が必要になると思います。


聞き手

いわゆる、変えるところと変えてはいけないところのさじ加減ですね。


瀬沼

時代性や周りの環境、ブランドの成長過程のタイミングでも変化が必要になります。今は8割変えてはいけないけれど、5年後は5割変えるくらい大きなイノベーションが必要なときもあるでしょう。


聞き手

100年以上続いている企業は、絶対に変えない理念とかブランドアイデンティティを守りながら、定期的にノベーションを起しています。その意味ではまったく同じですね。


瀬沼

もう一つバランスで大事なのは、長期的な視点と短期的な視点です。ビジネスをやる以上、短期的に結果を出さなければなりません。その短期的志向はブランドを壊す危ない要因の一つでもあります。ここは本当に難しい部分ですね。


聞き手

長期、短期の時間軸と、実際に変える内容のバランスを常に考慮しなければならないということですね。本日はありがとうございました。


※掲載の記事は2015年6月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。