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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >水野 与志朗氏 Vol.2

ブランド・コンサルタントからみたブランド・マネージメントの世界 – 後編

水野 与志朗氏 Vol.2 一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 評議員 ビーエムウィン・ブランディングオフィス代表

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸

【水野氏のプロフィール】

ブランド・コンサルタント。

学習院大学経済学部卒業後、味の素ゼネラルフーヅ(株)、

マキシアム・ジャパン(株)、ハーシージャパン(株)で

ブランドマネージャー、マーケティングマネージャー、

マーケティングダイレクターを務め、2002年より現職。

主な著書に『ブランド・マネージャー』(経済界)、

『THE BRAND BIBLE』(総合法令)、

『ブランド戦略実践講座』(日本実業出版社)、

『戦略的パブリシティ』(インデックス・コミュニケーションズ)がある。


優秀なブランド・マネージャーとは?

聞き手

優秀なブランド・マネージャー、マーケティング担当者とはどんな人でしょうか。


水野

やはり、冷静にものごとを客観視できる人ですね。違う見方を受け入れられるかどうかということ。つまり、柔軟なものの見方ができる人です。


聞き手

頑固な人は難しい?


水野

頑固な人で、ブランディングのコンサルタントを使ってうまく成果につなげている人はいないでしょうね。


聞き手

ブランド構築ができている企業の共通点、あるいはうまくいく、いかないの分岐点とはどんなところでしょうか。


水野

一つではないと思いますが、私のクライアントに共通しているのは、皆さん根が明るいですね(笑)。


聞き手

なるほど。どういう部分にそれを感じますか?



水野

トライ&エラーを恐れないことです。自分たちで今まで一生懸命やってきたけれども、それでもうまくいかなかったから、今、外部の力を借りてやっているという認識を持っている。茶わんの中のお茶が邪魔なんです。これを捨てないと新しい水は入らない。空になっているから新しい見方や知識を受け入れることができる。フラットの状態ですね。


聞き手

スポンジが水を吸収するようなものですね。


インターナルブランディングの重要性

聞き手

2002年に『ブランド・マネージャー』を出されましたが、今だったらこれを付け足したい、これを強調したいというのはありますか?


水野

『ブランド・マネージャー』で書いたのは、マーケットに対してどう働きかけるかというものでした。でも実際にはインターナルブランディングという観点、つまり社外に出す前に社内でどうすべきかという視点が非常に重要だと感じています。これまでの経験を検証してみると、そのプロジェクトが社内で求心力を持てたかどうかが成否を分けています。開発段階から社内に応援される製品をいかにつくれるか。プロジェクト自体が求心力を持てば、全社的に売ることに集中できます。それが、インターナルブランディングが重要な理由です。


聞き手

それが成功するプロジェクトの共通項というわけですね。水野さんがよくファシリテーション(合意形成、相互理解のための意識促進)をやられるのは、それがチームを活性化させるからなんですね。


水野

ファシリテーションそのものもインターナルブランディングの一環なんです。その時点で社内のプロジェクトチームを巻き込んでいき、さらに社内に広げていく。


聞き手

それをうまく推進するポイントは何でしょうか。


水野

いくつかありますが、ファシリテーションの原則に戻ることです。傾聴する、否定しない、誘導しない、楽しむ・・・誰かがいい意見を言うと拍手したり、要は場を信頼するということですね。


聞き手

信頼できないことが起きることはありませんか。


水野

議論のプロセスの中ではあったとしても、最終的には絶対に最良の答えが出ると信頼しています。


聞き手

ファシリテーション以外にどんなテクニックがありますか。


水野

意図的に社内を巻き込んでいく施策を出すことです。例えば、製品開発ならば、プロジェクトの中だけではまだ求心力は持てません。プロジェクトのメンバーがそれぞれのセクションに戻り、そこでCLT調査(調査対象者を召集し、個別面接により調査をする方法)のようなことをやるわけです。いわば、インナーCLTです。事業所の人たちに、「今こんなプロジェクトが進行しているが、それについてあなたの意見を聞きたい」というシーンをつくる。もちろん、辛らつな意見も挙がってきますが、社内の求心力はものすごく上がっていきます。


聞き手

実際に自分たちの現場で情報を集めるわけですね。


水野

それはすごく大事です。インナーCLTだと甘い結果が出るのではないかという意見もありますが、実際はまるで逆です。むしろ、マーケットでリサーチするよりも厳しい意見が出ます。なぜなら、その商品をこれから自分が売るんだという意識があるからです。


聞き手

まさに本音が出るわけですね。


水野

消費者調査では、漠然と「買ってみたい」という答えが多く出ます。しかし、社内の人たちはもっとシビアです。特に商品開発のプロジェクトでは非常に重要ですね。


聞き手

そのほか、社内を巻き込む水野さん流のテクニックとはどんなものですか。


水野

さきほどのインナーCLTで言えば、社内でこういう調査をすることをどう思うかという質問を、後日、事業所の皆さんにアンケートで問い掛けます。そうすると、たいていの皆さんが、「とても良い」とポジティブな回答をしてくれます。プロジェクトの中身に関しては辛らつな意見を言う人も、社内の意見を聞くことを非常に好意的に捉え、今までこんなことはなかったと高く評価してくれます。人間の心理は不思議なもので、自分でアンケートに肯定的なことを書くことでポジティブシンキングになり、社内の空気感が変わっていくんです。



聞き手

インターナルブランディングでこれはやってはいけないというものはありますか。


水野

答えを強要したり、もうこのスケジュールは絶対だからやるしかないといったノーチョイスの状態をつくってしまうことです。選択肢がなくなったときに、行き詰まる傾向がありますね。


聞き手

そんなとき、水野さんはどうされるのですか。


水野

もう一回ステップバックします。このスケジュールでいつまでに形にしなければならないといった、上から強要されたプロジェクトだと考えてしまうムードは一番良くない状況です。そうなってしまったときには、一歩ステップバックして、自分たちは本当はどうやりたいのかを再確認させるんです。


聞き手

ああ、なるほど。それは水野さんが客観的な立場だからできることですね。


水野

彼らが本当はどういう風にやりたいのかということを明らかにして、目の前のテーブルに並べます。そこから、彼ら自身のスケジュールをもう一度組んでもらい、本来目指すべきスケジュールと整合させます。


聞き手

そうすると行き詰った空気感が変わりますね。それは、ブランディングだけでなくすべての組織運営に応用できますね。


ブランド伝道師のミッション

聞き手

ブランディングという視点から、なぜ日本には百年企業と言われる老舗が多いのか、水野さん流の見解をお聞かせください。


水野

欧米をみたとき、ヨーロッパは日本の老舗に近くて、ブランドオーナーが代々ファミリーなので、軸がブレないんですね。要はブランドの意向が強く反映されやすいんです。例えば、○○はこういうブランドであるということをオーナー自身がよく知っている。ただ、彼らは経営のプロではないので経営のプロは外部から招き入れる。それがヨーロッパのやり方です。一方、アメリカではブランドオーナーという概念があまりなく、むしろ株主のために働くという意識が強い。ブランドオーナーの役割はブランドステートメント(憲法)に求めるわけです。それを社内的にしっかり管理して、そこからはずれることは絶対にしないという決め事をつくっています。ヨーロッパの企業もブランドステートメントは持っていますが、実質的にはファミリー企業の当主の意向が強い。


聞き手

オーナーの頭の中にブランドステートメントがあるようなものですね。


水野

歩くブランドステートメントです(笑)。


聞き手

日本もそういうものが代々引き継がれているということですか。


水野

創業者のDNA(遺伝子)を「見える化」しているかどうかですね。老舗と言われる店舗のオーナーは見える化はしていないけれども、肌感覚でそれを理解している。うちはこうなんだというのが身についているんです。だからブレない。それが日本に老舗が生まれる要因だと思います。


聞き手

では、なぜ今、ブランディングが必要なのでしょうか。


水野

例えば、日本の会社はこれまで、製品開発と営業活動で伸びてきました。つまり、新商品を出し続けることによってシェアを広げていくというやり方でした。でも、最近は製品を開発しても売れないという状況です。これだけモノが溢れていてブランドの数も爆発的に増えている中で、ブランドロイヤルティがつくりづらい状況です。例えば、コンビニに新商品を入れても3週間で棚落ちするとか、そういう状況が当たり前になったときにはパラダイムシフトが必要になります。新製品を出すことよりも、今持っている強い製品をいかに強くしていくかという方が、長期的にみれば儲かるわけです。つまり、新しいものを出して刺激を与えて売上げを伸ばすのではなく、消費者にそのブランドに対する愛着、こだわりを持ってもらう、あるいは自己表現するアイテムとして製品を評価してもらうことで、長く安定した商売を実現する。そのためにブランディングが必要なのです。


聞き手

価格競争に巻き込まれない強い商品やカテゴリーを持っていれば経営は安定しますね。以前、ブランドを自分の体にタトゥーできるかどうかがブランド愛着の評価軸だとおっしゃっていましたね。


水野

ブランドロイヤルティをどう量るかですね。今までは再購入意向調査を基に量っていましたが、今どき、そんなデータは誰も信じていません。本当に信じられるのは、極端に言えば、そのブランドを自分の体に彫ることができるかどうかだと思うんです。


聞き手

究極のブランドロイヤルティですね。アップルのリンゴマークとかハーレーのマークなんかそうですね。


水野

今までこんな調査はやったことありませんが、「あなたはこのブランドをタトゥーしたいと思いますか」という問いがあっても面白いと思いますね。本当の意味でブランドロイヤルティが量れるかもしれません。


聞き手

では、最後にブランド・マネージャー認定協会の今後の活動についてご意見を頂けますか。


水野

これからの商環境を考えた場合、ブランド構築を前提としないマーケティング活動はほとんど無意味だと思います。しかし、実際にはブランド・マネージャーというポジションすらない企業が多い。新製品を出して営業をかけるという日本企業独特のマーケティングパラダイムによるロジックが出来上がっていますが、もうそれはほぼ限界にきています。ブランディングに関するノウハウや知見はまだほとんどない状態なので、もっとブランドマネジメントを理解するシーズ(種撒き)が必要なのだと思います。協会でブランドマネジメントを勉強された方々が、それを社内に持ち帰って勉強会を開いたり、社内で実践して成果を出すことで、ブランドマネジメントやブランディングがいかに重要かが伝道されていく。そのブランドの伝道師になるということは非常に重要なミッションであると思います。


聞き手

協会はその伝道師輩出の機関でありたいと考えています。今回はどうもありがとうございました。


※掲載の記事は2015年3月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。