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専門家寄稿記事 ブランドの源である【構想】とは

ブランドの「構想」とは
新しいブランドを構築するとき、その初源には何らかの「構想」(idea/inspiration)があると考えられます。ここで言う「構想」とはブランドを構築しようと考える人が、直感的に得た事業・商品に関する思念のことです。直感的に得られた構想は、当初は仮説でしかありえません。その仮説が実現可能かどうかはまだ不明で、そののち、実践においてその仮説である構想は検証され、またブラッシュアップされることになります。
ブランドの初源である構想は、いくつかの形を取ります。ある日突然、その人の頭の中に思い浮かぶこともあれば、何かの事件やニュースによって発想されることもあります。また自分の事業とは関係ない事業を見ていて発想されることも珍しくありません。
ブランドの構想が単なる「思い付き」と異なるのは、そのアイデアが一定の構造をもっている点にあります。構造とは、要素と要素同士の関係が示されているということを意味します。つまり、単に「おいしいドリンクのブランドをつくろう」と思ったのでは十分ではなく、「フランス産の果実をもとにしてフレッシュなジュースをつくり、日本の若い女性に飲ませたい」という考え方が構造をもった発想ということなのです。
優れた「構想」とは
ウォルト・ディズニーは自社の事業に関して包括的な構想をもっていました (Zenger, 2013)。それは、劇場映画が中心=ハブとなり、テレビ、音楽、マーチャンダイジングのライセンシング、出版、雑誌、マンガがその周囲に緊密な関係をもって配置され、さらに、ディズニーランドがもうひとつのハブとして映画と屹立する、と言った図式です。こうした構図全体がディズニー事業の基本構想となっているのです。
レッドブルによってエナジードリンクという新しいカテゴリーを開発したディートリッヒ・マテシッツ氏の構想の始まりは次のようなものでした。
1980年代にアジアをビジネスで訪問したとき、彼は日本の高額所得者のリストを見せられました。そこで第一位になっていたのは大正製薬の上原正吉氏(故人・元大正製薬会長)だったのです。マテシッツ氏はクルマや家電ではなく、なぜ製薬会社のトップが一番の高額納税者であるかをリサーチして、「リポビタンD」の会社であること、また、日本には巨大なドリンク剤の市場があることを突き止めました。彼がレッドブルの着想を得たのはこうした経験がもとになっています。
また、住友不動産のリフォーム事業のブランドである「新築そっくりさん」は1995年の阪神淡路大震災を当時の高島準司社長が目撃したことに端を発しています。死因のほとんどが、家屋の倒壊や家具などの転倒による圧迫死だったことから不動産業によるリフォーム事業として構想されたブランドなのです。
「構想」の要素
こうしたブランドの【構想】は、次の要素からできていると考えられます。
1. 事業カテゴリー:どのような事業をなすべきか、参入すべきか。
2. 商品性能・機能:その商品はどのような機能や性能をもつべきか。
3. 顧客と事業ミッション:誰に対して何をなすべきか。
4. 事業の意味と意義:その事業は社会や生活者にとってどのような意味や意義をもっているのか。
ブランドの「構想」はどう役立つか
こうしたブランド構想はどのように役立つのでしょうか。
第一に、どのようなブランドにすべきか、ブランド全体像の出発点であり、その後に形成されるブランド戦略全体の基礎となります。
第二に、ブランド戦略の創出や選定に関わるガイドラインの役割を果たすことになります。また、ブランド育成の工程において、ブランド戦略を変更するとき、変化させるべき部分(推奨事項)と変化させてはならない部分(禁止事項)を区別するためにも役立ちます。
第三に、ブランド構築の関係者の間で、同じ考え方や価値観を共有化し、共感を得るために重要な役割を果たします。ブランドを構築する場合はブランドのチームが同じ考え方をシェアすることで、組織の中に求心力が生まれ、より効率的に目標を達成することができるのです。
こうした直感に基づくブランドの構想の問題はまだ十分に解明されているとは言えませんが、今後、この分野の研究が進展することが期待されます。
【引用文献】
Zenger, Todd. (2013). What Is the Theory of Your Firm? Harvard Business Review(online)
