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専門家寄稿記事 「ギブソン」にみるブランド経営のあり方

ギブソン社の破綻

2018年5月になって米国のエレクトロニックギター製造メーカー「ギブソン」(Gibson Brandsギブソン・ブランズ社)が経営破綻したと伝えられました。心配されたのは経営破綻に伴って「ギブソン」ブランドがどうなってしまうのか、ということでしたが、「チャプター・イレブン」(日本の民事再生法に当たる)の適用ということで、ギブソンというブランドが消滅してしまうわけではないと伝えられています。

ギブソンブランドは音楽業界、音楽ファン、特にロックファンには偉大な存在です。これまでに数多くの著名なロックミュージシャン、例えば、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジと言った神話化されたギタリストに愛用されたギターだったからです。ビートルズのジョン・レノンとジョージ・ハリスンはギブソンのJ-160Eというアコースティックギターでありながら、ピックアップのついたエレクトリックギターを1960年代初期から愛用していました。またギブソンは、ギブソン以外に、レスポール、エピフォンなどの著名ブランドも所有しています。ことに「レスポール」は、ギブソンの名前をいっそう高らしめたブランド名です。

何が問題なのか

ギブソン レスポール
(出典:https://gibson.jp/electric-guitars/3225

ここでの問題とは、そのような著名ブランドをもちながら、なぜギブソンは破綻せざるを得なかったのか、という点です。これまでの歴史で著名ブランドをもった企業が破綻しなかったわけではありません。それでは著名ブランド企業が破綻する理由と、破綻した後、どのようにブランド力が働くのか、あるいは働かせるべきなのか、そのマネジメントについて考えてみたいと思います。

ここでのポイントは3つあります。1)なぜギブソンは著名ブランドになりえたのか。2)ギブソンはなぜ今回破綻したのか。3)ギブソンは今後どうすべきなのか。

なぜブランドになったか

まず1)のギブソンがなぜブランドになりえたのか、という点です。
もともとギブソン社を立ち上げたのは、オーヴィル・ギブソン(Orville H. Gibson, 1856-1918)であり、旅行の途中で居ついたミシガン州カラマズーという町で、趣味の音楽を活かし1896年にマンドリンの特許を申請して取得しました。これが彼の唯一の特許でした。1902年にギブソンと仲間たちはギブソン社の原形である団体を組織化し、これが今日のギブソン社の創業となりました。

ギブソン社がその後発展したきっかけのひとつは、ギタープレイヤーのレス・ポールとともに、ソリッドギターを発明し発売したことです。エレクトリックギターは1931年にジョージ・ベンシャン(George Beauchamp)という人物によって発明されており、その後ジャズの世界でエレキギターの使用は広まりました。それまでのアコースティックギターに代わる今日のエレキギターの形をなすソリッドギターは1934-5年ごろに発明されています。

ギタリストのレス・ポールがギブソン社と共同でギブソン・レスポールというソリッドギターを発売したのは1952年ですが、それは競合であるフェンダー社のテレキャスター・モデルの後追いともみられています。
こうしてみると、ギブソン社はエレキギターの革新者であったというよりは、むしろ偉大な改良者であり、その普及を後押ししたブランドであったと言えるでしょう。たとえば、1950年代にハムバッキングというピックアップを装備したエレキギターを発売したり、1958年にExplorerとFlying Vという当時としては奇妙な形をしたエレキギターを発売して、すぐには売れませんでしたが、60年代末から70年代初めに再発売されてギブソン社の売り上げに貢献しました。

会社の現代化

ギブソン社は1944-1969年にChicago Musical Instruments社によって保有され最盛期を迎えます。その後、パナマに本社をもつNohlin Corporationに売却された1969-86年の間は低迷期と目されています。ギブソン社が復活を遂げるのは1986年に投資家であったヘンリー・ジャスキヴィッツ(Henry Juszkiewicz)たちに経営権が渡って後でした。

ジャスキヴィッツは当時まだ大衆からは着目されていなかった過去の名器の復刻版であるヴィンテージモデルやリイシューモデルを積極的に手掛けるようになり、今日われわれが見るギブソン社を形成してきたのです。低迷期と言われたNohlin時代にすでに、レス・ポール・ヘリテージ80を1980年に発売していたものの、そののち、こうした過去のモデル復活をテコとしてギブソンを復活させる動きを加速化させました。

1980年代にすでにエレキギターは日本からの安い輸入品の増加、不況、シンセサイザーの台頭などによってその地位を脅かされていたのですが、ジャスキヴィッツたちは生産・マネジメント・販売体制をあらため、リイッシューモデルである「ヒストリーコレクション」を発売しました。ユーザーであるミュージシャンの声を聴いて、再び高品質なギブソンという評価を得ることができ、ナンバーワンの地位に返り咲いたのです。

(出典:https://gibson.jp//

このように考えてみると、ギブソンというブランドは必ずしも独自性をもった革新者ではなかったものの、その時代の発明を洗練した商品に仕上げ、あとで著名人となるミュージシャンに支持される評判を築き、企業全体を作り替え、さらに近年、往年のブランド品質を取り戻したことが、現在われわれがみるギブソンブランドの基盤を形成したと言えるでしょう。

なぜ破綻したのか

2)それでは、なぜギブソンは事業会社として2018年になって破綻せざるを得なかったのでしょうか。直接的には、同社が過去に買収した日本のオンキヨーやティアック、オランダのフィリップスの傘下にあったウークスなどにかかる費用が負担になったことが挙げられています。

また、こうした買収に伴う負債の増加だけでなく、同社には環境問題に関連するトラブルもありました。ギブソン社は楽器製作のために、保護対象となっているエボニーやローズウッドなどを輸入した疑いで、2009年と2011年、ギブソンはアメリカ合衆国魚類野生生物局と国境警備局による捜索を受け、罰金を支払っています。

しかし同社の近年の低迷はそれ以外の外部環境にも原因があると考えられます。それはギター市場の縮小です。近年、ギタープレイヤーとしてヒーローであった著名ギタリストの老化や引退が伝えられています。例えば、1945年生まれのエリック・クラプトンは以前70歳になる2015年にはコンサート活動を引退すると宣言していました。つまりそれまでにエレキギター市場拡大に貢献してきたあこがれのヒーローが少なくなってしまったのです。

ヒップホップの台頭

また音楽業界の売上として、それまでトップを行っていたロック音楽に代わって、2017年からヒップホップ音楽がトップになりました。これはロック音楽がアルバムという形態で消費されているのに比較して、ストリーミング再生という消費形態にヒップホップが向いているからだと考えられています。

こうした外部要因に加えて、近年のギブソン社はギターを用いた音楽市場を拡大する努力をする代わりに、コレクターや愛好家のみに集中したコレクターズアイテム的商品に集中しすぎているようにも見えます。先にギター市場が縮小していると述べました。しかし日本のヤマハは2018年3月期の決算で、過去最高の純利益をあげています。これは中国でアコースティックピアノやギターなどの楽器販売が好調であるためと報道されています。つまり、世界市場を見ればギターの成長の余地はまだ残されていることになります。

むろんギブソン社がこの間、手をこまねいていたわけではありません。

2012年にギブソン社はFirebird Xという新製品を発売しています。このFirebird Xは、「1960年代に誕生したFirebirdモデルの進化系」であり、「オート・チューニングを可能にする第4世代のロボットチューナー、ギター内蔵のエフェクト機能、ステージやスタジオで抜群のユーザビリティを発揮するブルートゥース採用のワイアレス・ペダルをはじめとした様々な画期的な機能を搭載」(「Gibson USAから最新テクノロジーを搭載した 『Firebird X』 が限定リリース!」)という画期的な商品でした。しかしながら、この新製品はエレキギターの歴史を塗り替えるほどのインパクトは持ちませんでした。

どうすべきか

では、最後の問題、3)ギブソン社はどうしたらよいのでしょうか。
現在のギブソン社を支えているのは、過去のブランド遺産です。ボブディランモデルのように著名なアーティストのモデルを再発売することでこうした遺産は継承されています。しかしこうした遺産がいつまでもつかはわかりません。
なにより、ギブソンに必要なことは新しいブランド資産を築くことです。そのためには、ヤマハが模範を見せてくれたようにブランド資産をあらたに発展させる世界市場を発見することです。中国をはじめとする新興市場ではまだまだギター音楽が伸びる余地を残しています。こうした市場でエレキギターの市場を牽引し、拡大することが望まれています。

もうひとつは、欧米市場で、ギターに依存していないヒップホップ音楽市場に対して何らかの働きかけを行うことです。こうした新しい音楽のトレンドの中で新しいギターヒーローを育成することがギブソンに求められています。
さらに、Firebird Xのような新しい試みによって、エレキギターにイノベーションを自ら興すことです。エレキギターを始めようとする若者の多くが挫折しています。こうした挫折する若者を支援することはギブソン社にとって必要なアクションです。
ギブソンのような楽器のブランド資産をもった企業は数少ない希少な存在です。ギブソン社にはまだまだ発展の余地が残されていると考えられます。

【参照資料】

米ギブソン、事実上の“経営破綻”を選んだ理由 老舗ブランドが消える可能性は?
http://realsound.jp/tech/2018/05/post-190037.html

米楽器メーカー ギブソンが倒産する可能性は? ギターを取り巻く音楽業界の“今”を読み解く
http://realsound.jp/tech/2018/04/post-183761.html

Gibson brings back ex-CFO
https://www.nashvillepost.com/business/music-business/article/20992998/gibson-brings-back-excfo

https://plaza.rakuten.co.jp/oceanlane/7001
https://plaza.rakuten.co.jp/oceanlane/7001/

「カラマズー憧憬その7」
http://moon.ap.teacup.com/betrip/54.html

ギブソン (楽器メーカー)
https://ja.wikipedia.org/wiki/
%E3%82%AE%E3%83%96%E3%82%BD%E3%83%B3_
(%E6%A5%BD%E5%99%A8%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC)

Gibson J-185のEpiphoneバージョン!1986~1987年にかけて生産されたヌーボーシリーズのジャパンメイド!
https://blogs.yahoo.co.jp/amethystguitars/14451440.html

Why my guitar gently weeps
https://www.washingtonpost.com/graphics/2017/lifestyle/the-slow-secret-death-of-the-electric-guitar/?utm_term=.b7e38b9d19cf

ギター老舗ギブソン、破産法申し立て ロック音楽の低迷で市場縮小
https://www.huffingtonpost.jp/2018/05/01/gibson-guitars-going-bankrupt_a_23424908/

米ギブソン、ギター・メーカーのアイコン的ブランドが破産申請
http://rollingstonejapan.com/articles/detail/28315

Gibson USAから最新テクノロジーを搭載した 『Firebird X』 が限定リリース!
https://www.j-guitar.com/productnews_id4113.html

ギブソン・アコースティック、ボブ・ディラン モデル『Gibson Bob Dylan SJ-200 Collector’s Edition』『Gibson Bob Dylan SJ-200 Player’s Edition』2機種リリース!
https://www.j-guitar.com/productnews_id4970.html

ヤマハ、中国伸び最高益 前期最終16%増
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30034660R00C18A5DTA000/

Orville H. Gibson, 1856-1918
http://siminoff.net/gibson-background/

Electric guitar
https://en.wikipedia.org/wiki/Electric_guitar#History

http://archive.gibson.com/Press/press_history.asp
http://archive.gibson.com/Press/press_history.asp

Gibson
https://en.wikipedia.org/wiki/Gibson

「ヒップホップの売上がロックを超えた」 売上データから読み解くU.Sシーン(前編)
https://sukikatte.jp/2017report-hiphop-sales-01/

著者プロフィール

田中 洋 Hiroshi Tanaka 中央大学大学院
戦略経営研究科教授
日本マーケティング学会副会長

京都大学博士(経済学)
(株)電通 マーケティング・ディレクター、法政大学経営学部教授、
コロンビア大学大学院ビジネススクール客員研究員などを経て2008年4月より現職。
消費者行動論・マーケティング戦略論・ブランド戦略論・広告論に精通し、 多くの企業でマーケティングやブランドに関する戦略アドバイザー・研修講師を勤める。
その著作・研究活動により、日本広告学会賞を三度、中央大学学術研究奨励賞、 また東京広告協会白川忍賞特別功労賞を受賞している。
http://hiroshi-tanaka.net/

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