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専門家寄稿記事 自然と人が集まる価値のある会社に。ブランドとしての生態系を生み出す「枯れない泉経営」
■ 丸眞株式会社 代表取締役社長 眞邉光英 インタビュー
【プロフィール】
丸眞株式会社 代表取締役社長 眞邉光英(まなべみつひで)氏
1968年生まれ 東京都出身。成蹊大学法学部法律学科卒(専門:知的財産権法)。在学中はヨット部(ディンギー)に所属。海老の卸売り問屋で修行後、平成6年(1994年)に鰹節の加工製造販売を手がける丸眞株式会社に入社。平成21年9月から現職(丸眞株式会社 代表取締役社長)。一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会シニアトレーナー。

日本発の「旨み」は今や和洋中華あらゆる料理に欠かせないエッセンスです。200年以上の歴史を持つ鰹節問屋の丸眞は2017年からブランド全体の見直しを図り、「THE UMAMI COMPANY」というアイデンティティを確立しました。「2018年度ブランディング事例コンテスト」で優秀賞受賞を果たした後、老舗企業としての伝統を守りつつどのようなブランディングを展開していったのか? 徹底的に自分たちと向き合うことでたどり着いた新たな経営手法について、丸眞の眞邉光英氏に伺います。
※インタビューは2020年4月中旬に行われました。

「掛け合わせて、引き出し合う」ことが日本文化の神髄
聞き手 御社のブランディングは、「2018年度ブランディング事例コンテスト」で優秀賞を受賞されました。受賞後の展開についてお話を伺えればと思いますが…。最近は新型コロナの影響で、状況が目まぐるしく変わってしまいました。まずこの点についてお伺いしたいと思います。御社にはどのような影響がありましたか?
眞邉 影響は非常に大きいですね。弊社の取引先には飲食店が多いですから。すでに1ヶ月くらい休業しているお店が多いです。当社自体は、現在は全員出社していますが、今後はどうなるかわかりません。
聞き手 なるほど…。たいへんですね。御社としてはどのような対策を考えておられますか?
眞邉 当社としては、逆に今「THE UMAMI COMPANY」としてできることをやっていきたいと考えています。今までブランディングしてきたこと、本質を追求してきたことが、ここで活きてくるのではないかと。アフターコロナの時にそれが効いてくると思います。具体的にはどんな対策を取るべきか、模索している状態です。
聞き手 多くの企業が同様の状況に置かれているのでしょうね…ここで気を取り直して、事例コンテスト受賞後の展開をお聞きしていきたいと思います。
始めに、丸眞という企業の概要を含めて当時の状況を教えてください。
眞邉 弊社は飲食店様向けの鰹節問屋ですが、その歴史は今から210年以上昔の文化5年(1808年)の屋久島にさかのぼります。先代の眞邉勝也は昭和30年前後に兄とともに東京に拠点を移し、その後平成3年(1991年)に独立をして湘南に「丸眞株式会社」を創業します。私たちは「伝統の中に新しさを創り、そして始めるブランド」という意味で「創始」という言葉を使い、2017年よりリブランディングを開始しました。私がブランド・マネージャー認定協会のトレーナーとして学んだことを活かしながら、鰹節問屋代表として積み重ねてきたことを土台に、未来を見据えた「新しい丸眞」をブランドとして定着させることが目的でした。

聞き手 その結果、どのような成果がありましたか?
眞邉 これまで先達が残してきた知恵と歴史、そこに連なる自分たちの存在意義などがリブランディングにより強固につながりました。そして、私たちが持つ「新商品開発力・情報力・味の設計力」という強みが明確になりました。結果、社員のモチベーションが上がったことも大きいですね。プライベートでレストランに行ったときに丸眞のブランドブックを持参してさりげない営業活動を行った社員がいたのですが、これは今までに見られなかった傾向です。営業面ではテレビや雑誌からの取材依頼が舞い込み、大手企業からのお問い合わせも増え、飛び込みでのセールスでも話を聞いていただける機会が多くなっていきました。
聞き手 「新商品開発力・情報力・味の設計力」という強みについて詳しく教えてください。
眞邉 とあるラーメン屋さんの味づくりにオープン前からずっと携わっています。2016年末からですね。鰹節という伝統的な食材は日本食だけでなく各国の料理に応用できると考えています。そのラーメン屋はオープンから1年で食べログのスコア4.0点超えをしています。また、イタリアン、フレンチに向けて出汁の取り方も開発して、それを提案したレストラン2店舗は両方ともミシュランで2つ星を獲得しました。これらは「新商品開発力・情報力・味の設計力」という我々の強みを最大限に活かした結果だと思います。
私たちには「THE UMAMI COMPANY」というブランド・アイデンティティがあります。「旨み」とは日本人が発見した5番目の味覚です。鰹節の旨みであるイノシン酸や干し椎茸のグアニル酸、昆布の旨みのグルタミン酸を掛け合わせれば、もとの8倍もの旨みを発揮すると言われています。この知恵はまさに日本文化のエッセンスである「掛け合わせて、引き出し合う」ことだと私たちは捉えています。 掛け合わせて、引き出し合う対象は日本の食、世界の食、 新しい技術や考え方、先達の知恵や経験など多岐にわたっています。

聞き手 事例コンテスト受賞後の新しい動きや取り組みを教えてください。
眞邉 目下の取り組みは「脱お金ファースト」の実現です。売上や利益を追い求めるというよりは、私たちの取り組みの結果として売上が上がる、そんな仕組みを作っていきます。常に社員がやる気を持って楽しく働ける環境、働くことで脳内が活性化するような環境を実現することが目標です。そのための経営として考えているのがオリジナルの「枯れない泉経営」という手法なんです。
聞き手 それはどういった手法なのでしょうか?
眞邉 会社とはエネルギーが生まれる場所だと私は考えています。それを、微生物が生まれて動植物が集まる生命の源、言ってみれば生態系という泉に例えているんです。生命が集まれば自ずと人も集まり、そこからは文化・文明が生まれてきます。単なる泉ではなく、枯れない泉であることが重要なんです。自然と人が集まってくる価値のある会社。そんなパワースポットになりたいと考えています。
聞き手 「枯れない泉経営」という発想はどのように生まれたのでしょうか?
眞邉 丸眞ブランドを定着させるために、自分自身と自社に徹底的に向き合ったことがきっかけです。七代前の創業者から自分までの歴史、これからの未来までの展望を考えたとき自分たちにはどんな可能性があるのか。自分たちが何者なのか深く考えました。「THE UMAMI COMPANY」を実現させるためにはどうするべきなのか。そのための設計図やブランド・ステートメントはすでに作りましたが、内発的なモチベーションがなければ実現はできないでしょう。今の時代は通り一遍のテクニックだけではない、ブランドとしての生態系を作らなければダメだと感じました。

聞き手 その「ブランドとしての生態系」が「枯れない泉経営」ということですね。
眞邉 そうです。ブランディングではあらゆる方向から「本物とはなにか?」を突き詰めていく必要があります。過去のデータを分析することはもちろん大切ですが、それだけではゴールにたどり着けません。私たちもまだまだ未完成ですが、これからも自分自身を掘り下げて小手先ではないブランディングにつなげていきたいですね。私の母校である成蹊大学の由来となった「桃李成蹊」という言葉があります。これは、桃や李の木のもとには美しい花や良い香りの果実を求めて多くの人が集まり、自然と道ができるという故事から来ています。すなわち、魅力的なところにはたくさんの人が集まってくるわけで、「枯れない泉経営」の出発点となっています。
人の役に立ったときの嬉しさが原動力
聞き手 そういった発想に至るまでには、それなりの苦労があったのでしょうか?
眞邉 入社当時の飛び込み営業で何度も門前払いされた経験から、マーケティングの必要性に気付いたんです。いきなり「鰹節いかがですか」と売り込むと、その時点で聞く耳を持ってくれないんです。そこで、経営者が気になっていることは何かを考えるようになりました。集客方法とか新メニューとか、なにか困りごとがあればそれに対して有益な情報を提供することを心がけました。そうやって何度か足を運ぶうちに、向こうから「なにかいい鰹節ないの?」なんて言われたらそこで初めて鰹節の話をするんです。
そうやって5分でもこちらの話を聞いてくれて、自分の情報が役に立ったと言われたときが本当に嬉しかったんです。そうやって価値ある情報を提供していくと、自分の持っている情報もどんどん良質なものに変わっていくんです。わらしべ長者みたいなものと言いますか。売り込むのではなくて、私はこれを「絆づくり」と考えています。常にいい情報を持っていれば頼りにされますから、結果売り込まなくても売れていくようになるんです。お金とモノの交換ではない、価値と価値を交換して120%の満足をしてもらう。
聞き手 そういった過去の経験が、現在のブランディングに生きてるんですね。これからの時代の変化に丸眞のブランディングがどう対応していくのか楽しみでもあります。
眞邉 コロナウイルスの騒動が終息したあとは、確実に世界は大きく変わると思います。組織はティール型にシフトして、社会もだんだんエシカルで自然志向になっていくのでは。人間は必ず変化、進化する生き物で、それができない個体は脱落します。
しっかりと自分たちの生き方、あり方を見据えてないと日本人の特性で右へ倣えになってしまう。私たちには「THE UMAMI COMPANY」という軸があり、「枯れない泉経営」もこれからの時代にマッチしている手法と言えるでしょう。多様な文化や価値観を「掛け合わせて、引き出し合う」ことで、新しい時代を乗り越えていきたいと思います。
聞き手 本日はありがとうございました。
