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専門家寄稿記事 営業とブランド戦略

営業とブランディング
営業とブランドの関係について考える前に、営業とマーケティングの関係について考えてみよう。営業はどの企業にもなくてはならない機能であるにも関わらず、これまであまり研究されてこなかったし、営業やセールスを講義科目として教えている大学は数少ない。
なぜそうなのか。一つの理由は、営業の在り方が企業によって大きく異なり、一般化が難しいということがある。例えば、個人で売るクルマの営業活動と、企業対企業の取引関係であるBtoB営業とでは、動き方や考え方が異なっている。このため、営業という活動そのものが体系化されて理解されているとはいえない現状がある。
しかし、営業が重要でないというわけではない。営業が重要な本質的理由は、営業がマーケティング活動を最終的に「実現」させる点にある。つまり、顧客と取引関係を開始し、条件を交渉し、売買契約を成立させ、商品やサービスを納入したうえで、売掛金を回収し、次のビジネスに結びつけるという一連の活動は、事前に構想されたマーケティング戦略を実現させることである。
営業とブランドの関係
それでは営業とブランド戦略とはどのような関係にあるのか。ここで言うブランド戦略とは、ブランド価値を高めるための企業活動という意味である。営業活動と一連のブランド戦略との関係とは、大きく分けて二つある。
第一の営業とブランド戦略との関係とは、ブランド戦略の成果を活用して営業活動に役立てることである。例えば、ブランド戦略の成果として、企業ブランド名の知名度が高まり、評価も高まったとする。そうしたら営業はその成果を活用して、より多くの企業への訪問を果たし、いっそう効率的な営業活動を推進することができるだろう。
第二の営業とブランド戦略との関係とは、営業活動そのものが、ブランド価値を高めることである。つまり、営業を行うことが、売上だけでなく、ブランド価値を高めるよう、意図的に活動することである。場合によっては売上よりもブランド価値を優先する営業活動もありうる。
例えば、ソニーの初期、まだ東京通信工業という社名であったころ、1955年に完成した最初のトランジスタ・ラジオを持って、創業者の一人、盛田昭夫氏はニューヨークでアメリカ市場へ営業活動を行っていた。当時時計会社で有名だった米国のブローバ社が10万台の注文を申し入れたが、盛田氏はこれを断った。なぜなら、ブローバ社からの条件は、ブロー社のブランドで売らせてほしいというものであったからだ。これはブランド価値を優先する営業活動の例ということができる。
以下ではこの観点から営業のブランド戦略について考察してみる。
営業が行うブランディング
それでは営業が行うブランド価値を高める活動を挙げてみよう。
(1)関係構築:企業ブランドの理念や企業姿勢を伝えて理解してもらったうえで取引関係を構築する。
(2)価値伝達:顧客や販売代理店に、当社のブランド価値がどのようなものか、どのように異なるかを伝達する。
(3)価格維持:ブランド価値にふさわしい価格であることを顧客に説得する。
(4)製品授受:製品の搬出から納入まで、ブランド価値にふさわしい活動を行う。約束した期限に間に合わせるだけでなく、あるいは、納入に際してある種の儀式や記念品を用意して相手に、購入して良かったと感じられる活動を行う。
(5)フォローアップ:メンテナンス、返品、クレーム処理に至る過程をブランド価値にふさわしい形で実施して、購買後の顧客満足を高める。
(6)関係維持:販売活動終了後も、フォローアップサービスやメンテナンスなど、ブランド価値にふさわしい活動を展開する。
(7)フィードバック:営業の現場から顧客の反応を通じて、ブランドのあり方について意見をブランド担当者にフィードバックする。
(8) ブランド創造:ときとして営業自身がブランドを創造することもある。特定の顧客のためにブランドをつくることや、それまで強いブランドとは言えなかったブランドを強くするブランド戦略が営業の現場から始まることがある。
このように考えると、営業とブランドとの関係とは、営業がブランド価値を活用する局面と、営業がブランド価値を高め創造する局面との2つがあることがわかる。営業活動とはブランド戦略とは実際に密接な関係にあるのだ。
