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一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 > スペシャルインタビュー >大石 賢司氏 Vol.2

価値観が全く違う新規ブランドのイメージづくりに大切なものとは – 後編

大石 賢司氏 Vol.2 SPRINGS C.S.F.、C.S.F.WOOD 代表取締役

聞き手:一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会 代表理事 岩本俊幸

【大石氏のプロフィール】

SPRINGS C.S.F.、C.S.F.WOOD 代表取締役。

クリエイティブ・アートディレクター。

資生堂ブランドのひとつであるイプサを、

15年間にわたりアートディレクターとして、

イメージ作りから店頭のトータルツールの開発にまで携わり、

イプサのブランドイメージを確立。


顧客にどう思われたいか

聞き手

ブランド・マネージャー認定協会では、ブランド・アイデンティティとはお客さまにどう思われたいかを築くものという風に定義しているのですが、大石さんは、お客さまから「イプサ」をどう思われたかったのですか。


大石

最終的にはこのブランドを信頼してもらいたかった。しかし、信頼感を得るために、「私を信じてください」と言ってもそう簡単には信じてもらえませんよね。私自身が考えていることを伝えることで、それに共感してくれるお客さまは、「ああ、この人は信頼できる人だ」と思ってくれるような、例えば、「私が望むのは自然と一体化する水のような生き方です。ある時は、雨のように、あるときは海のように、あるときは空の雲ように。そういうものを目指しているのです」という風に、私(イプサ)の考えていることをいかに表現するかに注力したわけです。


聞き手

その際に切り捨てるものはありましたか。


大石

相当切り捨てましたね。


聞き手

そのあたりの思考プロセスはどのようなものだったのですか。


大石

例えば、女性を出すべきかどうか。最初は出さなかったんですが、数年たつと、「女性像が出てこないとなかなかブランドとして認知されにくいのではないか」といった意見が出てくる。で、女性を出したくなる。でも、女性を出さずにこのブランドを維持していくつらさと同時に、その中にオリジナリティをどう見つけていくかという方向はブレさせたくなかった。ですから、女性を出さないことを相当意識して徹底しました。それと、もう一つは製品から逃げないこと。例えばですが、「天使のはしご」という口紅の(色)を出すとします。「天使のはしご」というのは雲のすき間からもれる太陽の光のことです。しかし、具体的なビジュアルや写真を出してあげないと「天使のはしご」はどういうものか理解してもらえない。でも、製品から逃げないで、製品を使ってそれを表現できないかに知恵を絞るわけです。


聞き手

製品とはパッケージのことですか。


大石

そうですね。パッケージ、あるいは色とか中身ですね。製品から逃げずにパッケージや色でブランドそのものを表現していく。ものすごく大変ですけど、絶対にそれだけはやりぬくぞと。そのためには相当のものをそぎ落とさなければならない。そぎ落とした中で、どんなに苦しくても自分のクリエイティブをやってのけるという覚悟は、切り捨てるということにあたるかどうか分かりませんが、自分に対する相当な縛りではありましたね。


聞き手

それはものすごく勇気がいることですね。ある種、自分が試されるみたいな。でも、それはある意味、最大の宣伝効果にもなりますね。



時代との間合いを意識する

聞き手

「イプサ」の競合ブランドはどう意識しましたか。


大石

12年間の中ではほとんど意識しなかったですね。


聞き手

マーケティングではよく、「まず競合を知れ」というじゃないですか。なぜ、意識しなかったのですか。


大石

まず、私の場合、百貨店の現場を見ることが日課でした。クリエーションって密室の中の作業ではなくて、お客さまに対してクルー(販売員)がどういう対応をしているのかが、ものすごく関係してくると思うんです。クリエーションが彼らにとっての大きなバックアップになり、彼女たちがこのブランドを信じて、ブランドに誇りを持てる「働きやすい環境」にすることが、私たちの役目なんだと思いました。そのことを、日々、売場で確認する。自分たちのブランドが売場でどう表現されて、クルーたちがお客さまにどう表現しているのか。それは日課として、毎日見ていました。その中でほかのブランドの比較とかはまったく考えなかったですね。競合を意識するのではなく、自分たちのクルーとお客さまを意識する。自分たちは自分たちの道をいくという考えでした。


聞き手

「イプサ」の後もいろいろな化粧品ブランドを手掛けていますが、基本的にはすべてうまくいったのですか。中には、失敗したものもあるのですか(笑)。


大石

ありましたね。「イプサ」の後に違うブランドをお手伝いした後、アロマブランドを手掛けました。ブランディングの考え方は、東洋のバランス感覚を根本に置いたものでした。仕上がったものは素晴らしいものだったのですが、この仕事は結果的に1年で終わりました。


聞き手

それはなぜですか。


大石

当時は「フレームが早過ぎた」と言われました。その後にアロマが認知されていろいろなデリバリーが出てくるのですが、「普通のアロマブランドとはこういうもの」という感覚に対して、私たちは3倍くらい未来のフレームをつくってしまった。それゆえに、「ものすごく素晴らしい」と言われながらも、プロジェクトはつぶれてしまいました。新しいブランドは、考え方がお客さまにいかに分かりやすく伝わるかということと、それをだすタイミングがポイントなんですね。そういうものがきちんと育っていないタイミングでは、どんなに素晴らしいブランドであってもダメなんだということを痛感しました。


聞き手

例えば、時代の一歩先ではなくて半歩先ぐらいがちょうどいいと言われますよね。確かにそういうタイミングは重要ですね。そうした時代との間合いを察する能力も鍛える必要があるのでしょうね。


大石

その経験から、自分の中でデザインやブランドに対する考え方が少し変化しました。それまでは、もっと研ぎ澄ますというか、切れ味のいい刀を研ぐようにデザインを突き詰めてきたわけですが、それでは売れないという壁に一度ぶつかったんですね。ビジネス的な失敗の要因は、それがすべてではなかったかもしれませんが、ブランディングの感覚でいうと、研ぎ澄ますことをすべてのブランドに持ち込んではいけないと。そのさじ加減がうまくできるようなところに持ち込まないと、結果的に失敗も出てきてしまう。


聞き手

それは時代だったり、企業の文化だったり、ターゲット層の価値観だったり、いろいろな要素がありますね。


大石

実はクリエーターって、そこを見失っていく可能性が非常に高いんです。



最も重要なのは顧客接点の場

聞き手

なるほど。そのほか、大石さんから、後輩のクリエーターたちに対してブランドに関わる際の考え方とか心構えとかのアドバイスをお願いできますか。


大石

若いクリエイターたちにいつも言うことですが、若い時って時間にしろ、お金にしろ環境はそれほど恵まれていないけれでも、そのことに対して絶対あきらめるなということです。
チャンスは必ずやってくる。そのチャンスが来た時に、その波に乗れるだけの力をちゃんとつけておく。
今日のうちにその力を鍛えておかないと、明日その波が来た時に乗れません。
人生には多分2~3回は波がくるんじゃないかと思います。それを見逃してしまう、あるいは波が来たのが分かっていながら自分の未熟さゆえに乗れない。
そうならないように鍛えておいてほしいですね。
たとえ、そのときに波に乗れなくてもいいから、へばりついても、その波にぶつかっていけるだけのエネルギーを日頃から蓄えておかないと波はいつ来るか分からない。それは明日かもしれないのです。
自分もそうでしたが、めげてしまうんですね。ああでもない、こうでもないといろんなこと言われて。何が正解なのかも分からない状態になるわけです。
それでも、その中で自分自身が求めるものを迷いながらも忘れないで、必ず自分が納得するまでやる。それをずっと続けられるかどうかが分かれ道になります。


聞き手

まず、準備をしっかりやっておくことですね。波が来そうなときにそれを察知するアンテナは必要ですね。しっかり準備しておかないと、そのアンテナすら機能しなくなりますね。


大石

私自身を振り返ってみても、その波が分かっていなかったような気がします。後になって、実はその波がどんなにすごいものだったのかが分かるみたいな。
私が自分を成長させてくれる仕事にめぐり合えたということは、自分のおごりではなく、そこに押し上げてくれる力のようなものが波だったり風だったりではないかと思います。
その波や風をつかめる自分でいるためには、日頃から自分がやらなければならないことをきちんとやっていくんだという意識を持つことと、感じとるアンテナを磨くということです。


聞き手

では最後に、ブランドに関わる人たちにメッセージをお願いします。


大石

今、時代がものすごく変わりつつあります。
例えば、雑誌が減り、カタログが電子化し、どんどん情報の伝え方が変わってきている時代の中で、広告における「神話」がどんどん崩れていっています。
そういう中で、クリエーションの原点やコミュニケーションとは何なのかを、もう一度自分たちなりに見つけ出す必要があります。私は、こんな時代だからこそ、やはり、製品に戻るべきだと思います。
製品の中身とパッケージ、もしくはそれを生み出す文化や風土といった環境。
そして最も重要なのがそれを売る人と場所。
ここがこれからのコミュニケーションの一番重要なポイントだと思う。
これまで広告費に重点をおいてきたことから徐々に製品、売る人、売る場所に目を向けるべきだと思いますね。
顧客接点の場で皮膚感覚的なクリエーションをもっともっと大事にしていくべきです。これがこれからの時代にもっとも必要なことだと思います。


聞き手

伝える手段とか媒介するものよりも、まずは商品そのもの。商品そのものが語り、商品そのものが感動を与える。そして、それを売る場と売る人が最も重要ということですね。今日は大変参考になるお話をありがとうございました。


※掲載の記事は2015年4月時点の内容です。
掲載内容が変更となっている場合がございますので、ご了承ください。